シェイクスピアは「人生は選択の連続である」と述べました。私たちは朝目覚めてから夜眠りにつくまで、無数の選択を積み重ねています。その数は一日およそ9000回にのぼるともいわれます。
朝食に何を食べるか、どの服を着るか、何時の電車に乗るか、どの車両に乗るか。会社に着けば、会議でどの言葉を発するか、どの資料を優先して仕上げるか──。些細な選択から仕事の成果を左右する重大な選択まで、私たちは途切れることなく選択を迫られているのです。
「そんなの当たり前」と感じる人もいるでしょう。確かに、意識して探せば何事も選択と捉えることができます。しかし重要なのは、その選択に「限界」があるという事実です。
心理学では「決定疲れ(decision fatigue)」という概念が知られています。人間は一日に下せる決断の回数や質に限界があり、繰り返すうちに判断力が低下していくのです。つまり、どんなに能力の高い人でも、選択の回数が増えるほど誤った判断を下しやすくなるのです。
この事実を逆手にとり、自らの選択を意図的に減らしている人々がいます。アップルのスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグはその代表例です。彼らは毎日ほとんど同じ服装をしていました。ファッションの選択を一つ減らすことで、仕事という重要な選択に集中するためです。
極端な例では、デザートは常に「チョコレートアイス」と決めてしまい、迷う余地をなくす人もいます。一見すると奇妙に思えますが、選択肢を限定することによって、他の大切な意思決定に集中できる環境を自らつくり出しているのです。
では私たちの日常生活において、選択をどのようにデザインすればよいのでしょうか。鍵となるのは「ルーティーン化」です。
毎朝同じ時間に起き、同じ道を通勤し、同じ朝食をとる。こうした習慣は一見退屈に見えますが、実際には脳のエネルギー消費を抑え、肝心な場面での決断力を温存してくれるのです。
また、ルーティーンは「迷い」を減らすだけでなく、自分にとって最適な行動を自動化する効果もあります。運動習慣、読書習慣、勉強習慣──これらを「やるかやらないか」と毎回選択するのではなく、あらかじめ「やる」と決めてしまう。選択を繰り返すのではなく、行動そのものを生活に組み込むのです。
選択の質を高めるためには、「重要な選択に回す余力を残すこと」と「大切な行動をルーティーンに落とし込むこと」の両方が欠かせません。
私たちは一日9000回もの選択を繰り返しています。しかし、そのすべてに同じだけのエネルギーを注ぐことはできません。だからこそ、何をルーティーンに委ね、どこに集中して選択を使うかが、人生の質を大きく左右します。
選択には限界がある──この事実を知るだけでも、日々の暮らしの見え方は変わるでしょう。小さな選択を整理し、大きな選択に余力を残す。それが「選択の連続」としての人生をより豊かにする第一歩なのです。

