日常のささいな場面でも、人は簡単に怒りの感情を抱きます。電車で肩がぶつかったり、列に割り込まれたり。ほんの一瞬の出来事なのに、心の中で大きな炎を燃やしてしまうことがあります。
しかし、怒りは基本的に有害無益な感情です。怒っている間は相手のことばかりを考え、「どうやって相手を論破するか」「次はこう言い返してやろう」と思考が支配されます。これは自分の心をさらに消耗させ、時間を浪費するだけです。賢人たちも「怒りは敵と思え」(徳川家康)、「怒ると相手より自分を傷つける」(オプラ・ウィンフリー)と説いています。
昨今はアンガーマネジメントという怒りのコントロール法も数々あります。6秒間怒りを我慢するなど、具体的な方法もありますが、怒りを募らせた結果を想像することが冷静さを取り戻すのが一番有効でしょう。
怒りを行動に移すと、待っているのは損失ばかりです。暴力や暴言はもちろん、相手の欠点をあげつらったり、事実を公言して貶める行為であっても、相手からの信頼を失うだけでなく、周囲の人々からも距離を置かれることになります。
たとえ愚痴を言う程度でも、聞かされる側にとっては心地よいものではありません。「自分も陰で言われるかもしれない」と思われれば、やはり人は離れていきます。つまり、怒りを表すことには、生産性も有益さもないのです。
大切なのは、まず「怒りは無益だ」と知ることです。感情が湧いたときに深呼吸をして十数える、運動で気を紛らわせるなども有効ですが、最も大事なのは「怒りに価値はない」と理解することです。
どうしても相手に伝える必要があるときは、冷静さを保つことが条件です。そして自分の感情を率直に伝えると同時に、相手の意見にも耳を傾けることができれば、多くの場合は解決に至ります。
自分の怒りの火に自ら油を注ぎ、人生の大切な人間関係を壊すことのないように。怒りを手放すことは、心の自由を取り戻す第一歩なのです。

